富裕層や観光客向けへと変化 パリの百貨店・ショップ最新事情

2017年にセレクトショップ「コレット(COLETTE)」が閉店してからというもの、心にぽっかりと穴があいたかのように、パリの街は少々盛り上がりに欠けていた。とがったセレクションで支持される「ザ・ブロークン・アーム(THE BROKEN ARM)」や「コレット」の元従業員がオープンしたショップ「ヌー(NOUS)」などは一部の業界人には人気だが、影響力が大きいとは言い難い。ECの台頭によって実店舗の経営は厳しいのかと思っていたが、昨年末から百貨店やショップに関するニュースが続々と舞い込んできた。その中から、面白いショップやコラボレーションなどを紹介する。

最も大規模で、人の流れを変えると予想されているのは、3月28日にオープンした百貨店ギャラリー・ラファイエット(GALERIES LAFAYETTE)が開いたシャンゼリゼ通りの新店だ。百貨店というよりコンセプトストアのようなポジショニングで、多彩な企画を打ち出し、“提案型の実験的店舗”をコンセプトに掲げている。パーソナルスタイリストやテクノロジー、アプリを活用し、ミレニアル世代や新たな顧客層の獲得を目指している。従来の店舗よりも地域の顧客を増やすことを想定しているようだ。しかし、大型店よりも個人店、テクノロジーよりもハンドメード、便利さよりもあえて不便さを選ぶようなフランス人が、大衆的な百貨店に、それもシャンゼリゼ通りに足を運ぶとは思えない。やはり観光客が大半を占めることになるのではないかと予想するが、話題性があるため集客率が高いことは確かだ。

パリの百貨店の中で、地元の顧客が多いのはボン・マルシェ(LE BON MARCHE)百貨店だ。パリ左岸の高級住宅街に建つ品のある館内では、いつ行ってもBCBG(上流階級)と思われる素敵なマダムを見かける。従来の顧客を取り込む保守的な面と、気鋭デザイナーやスタートアップ企業とのコラボレーションなど挑戦的な面の2面性を有する。同百貨店は4月22日まで、米企業のアルマリウム(ARMARIUM)とコラボレーションし、ラグジュアリーブランドの服のレンタルサービスを実施している。アルマリウムは16年にレンタルサービスの事業をスタートさせ、ニューヨークにショールームを構える。18年度の売上高は前年比2倍と好調で、フランスの主要企業とのコラボレーションは今回が初めてだ。オンラインで予約をして百貨店へ行くと、独自開発したAIロボットのアルミボット(ARMIBOT)が作成したルックブックをiPadで閲覧でき、服の詳細を開くと、スタイリストによるスタイリング指南の動画を見ることができる。選択可能なブランドは、「ハイダー アッカーマン(HAIDER ACKERMANN)」「パコ ラバンヌ(PACO RABANNE)」「ジェイソン ウー(JASON WU)」「シエス マルジャン(SIES MARJAN)」「アーデム(ERDEM)」「アレクサンドル ボーティエ(ALEXANDRE VAUTHIER)」など約50ブランドの19春夏コレクション。アメリカで成長している新事業なだけに、フランスでの今後の広がりが注目される。

ショップ分野においては、今年1月にレピュブリック広場近くにオープンした「ザ・ネクスト・ドア(THE NEXT DOOR)」が好調だ。同店はフランス南東部の地方都市アヴィニョンに2店舗とECサイトを有し、メンズのラグジュアリーブランドとストリートウエアを扱う。セレクトする約70のブランドは「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」「ジル・サンダー(JIL SANDER)」「マルニ(MARNI)」のほか、「サカイ(SACAI)」「アンダーカバー(UNDERCOVER)」「コム デ ギャルソン・ジュンヤ ワタナベ マン(COMME DES GARCONS JUNYA WATANABE MAN)」「ビズビム(VISVIM)」など日本ブランドの名も並ぶ。「ステューシー(STUSSY)」「ストーンアイランド(STONE ISLAND)」といったカジュアルブランドも多く、Tシャツは40~400ユーロ(約4960~4万9600円)と価格のレンジが広い。4フロア構成となる予定だが、2〜3階はまだ準備中だ。1階は主にウエアが陳列され、地下にはスニーカーが並ぶ。特にスニーカーはレアなラインやコラボレーションモデルもそろえており、マニアからの人気が高いという。

ビンテージ服マニアが熱狂しているのは、昨年11月にパリ16区にオープンした「ル・ヴィフ(LE VIF)」だ。16年にオープンした「ホリデー(HOLIDAY)」の斜め向かいに位置する。ビンテージ服の世界で名の知れたゴーチエ・ボルサレーロ(Gauthier Borsarello)が、友人のアーサー・メングイ(Arthur Menguy)とジェレミー・ル・フェブル(Jeremiah Le Febvre)と共に経営する。ボルサレーロは以前からファッションのプロに向けてビンテージ品のレンタルサービスを行っており、「ホリデー」の地下にはそのショールームを構えていたが、事業拡大と販売を行うために同店を開いた。

5月に予想されているドーバー ストリート マーケット(DOVER STREET MARKET)のパリ初出店は、多くの業界人が心待ちにしている。ファッションとは別分野のニュースとしては、4月にマレ地区に、高品質なイタリアの食材を扱う総合フードマーケット「イータリー(EATALY)」が約4000平方メートルの店舗をオープン予定。さらに5月には、パリ中心地に「イケア(IKEA)」もオープンを控えている。「イケア」といえば、中心地からは離れた場所に約2万平方メートルの広大なショールームと売り場を備えているのが通例だったが、パリの店は4分の1の約5000平方メートルの店舗面積となる。スペースを最大限に利用するため、デジタルデバイスでの家具展示を行う予定だ。この都市型「イケア」が成功すれば、今後他都市でも展開されることが期待されている。

パリでは続々と新店がオープンしているが、実際には決して景気が良いとは言えず、長引く黄色いベスト運動の抗議デモが景気減速をますます加速させている。フランスの経済やラグジュアリービジネスに精通するファッション&ラグジュアリービジネス・コンサルタントのアキム・ムステロ(Akim Mousterou)にパリの百貨店・ショップの潮流について聞いた。同氏は「現在のフランスの状況は、下層は苦境から抜け出せず、中間層は税金の負担を強いられ、富裕層だけが優遇される状況でますます格差が広がっている。それに伴って、ビジネスモデルは富裕層に焦点を当てるような流れに変わっている。あとは観光客(特に中国からの)がメインの客層で、主要な百貨店は高度に訓練された販売員と免税手続き処理を重要視する傾向にある。歴史的建築物を変容させ、アートインスタレーションや派手なイベントを行うのは“インスタグラムの罠”にハマっていると言え、本来のフランスらしいテイストとはかけ離れている。パリジャンたちの足はどんどん遠のいている。その分、彼らは保守的で正統派のセレクトショップを支持する傾向にある」と分析する。

2024年のパリ・オリンピックに向けて、街はますます変化を遂げそうだ。特に観光客に対しては、今まで以上に優しい街になるのではないだろうか。しかし在住者としては、まずは一日も早くデモが沈静化することを何よりも願っている。

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